201601.15
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米国での現地法人の設立の選択肢について

特に日本企業に限らず、米国外の事業体が米国で活動する際には、その事業体の形態によってどのようなメリット・デメリットがあるか、それぞれの状況に応じてそれぞれの場合の様々なシナリオを調査検討し、最適な形態を選択すべきです。世界に冠たる日本経済の一環を担われている日本企業の方々ですから、当然そんなことは百も承知されておられる、と思ってたのですが、残念ながら、そのような可能性を全く検討せず、「アメリカに進出するのだから、まず子会社を作りました。」とおっしゃる方がほとんどです。

じゃあ、子会社を早急に設立するくらいだから米国でのビジネスはすでに発生しているものだと思い、米国での売上の規模、経路 (distribution channel)・組織・人員等について私が質問すると、多くの場合、「まだ何にも売上はありませんし、組織や人員もこれから考えます」という答えです。あるいは、米国進出の形態をお聞きしたら、「米国で投資家を募って、弊社(日本企業)と共同出資のベンチャービジネスを起こします」という方も結構多いのですが、そんな方々でも、「子会社の現地法人はもう設立しました」とおっしゃることがあります。とにかく、皆さん会社を設立される方向にあるようです。

米国で事業をするのに子会社を設立をしないで事業を開始するのか?という質問が当然出てきますが、もちろん、子会社を設立せずに事業展開をすることは十分可能です。単にシリコンバレーで行おうとすることを、子会社ではなく、外部エージェントやコンサルタント、弁護士を使って行うというだけのことで、子会社を設立して1~2人の従業員を雇用するよりはその業務分野の専門家・代行業者を使った方がコストパフォーマンスがよくなることは十分あり得ると思いますが、私が見る限り、日本の企業の多くの方々はそのような選択はされていないようです。

一番端的な例ですが、ビジネスそのものは日本から十分行えるが、米国のお客様のサポートには米国にもコンタクト先があった方がいい、とか、米国のお客様に対応するのは米国人がいい、ということで米国でカスタマーサポートやマーケティング・パブリックリレーションズの組織を置いて活動したい、という場合、その為の子会社を設立しても、新たなビジネスを生み出すわけではないので、子会社を設立したことで新たに発生するコストや経費を担うビジネスの収入は得られません。そこで子会社の運営の為の収入を得るには親会社のカスタマーサポート・マーケティング・パブリックリレーションズ等の役務提供を子会社が行ってその対価を親会社が子会社に支払う、というストラクチャにせざるを得ず、親子間で委託サービス契約を結ぶ必要があります。そうなると、子会社の米国の税務申告書には親会社の財務諸表を開示しなければならないだけでなく、その契約は関係会社間取引として移転価格税制の対象となり、間接的にではありますが IRS が親会社に対する司法所轄を得てしまいますし、子会社の課税所得は親会社の完全なコントロール下にあることになり、その正当性を IRS に問われた場合には、その立証には非常に困窮することになります。

また、現地法人はカスタマーサポート・マーケティング・パブリックリレーションズ等の役務提供しか行わないのであると、E-1 Visa の申請に必要な十分な規模の売上をあげられません。同様にカスタマーサポート・マーケティング・パブリックリレーションズ等の部門だけで 1~2 人の従業員しか置かないのであれば、子会社に必要な資本投資も E-2 Visa を申請できるレベルに至らない可能性も高くなります。

また、現地法人が無ければ米国で訴訟されるリスクも低いわけですから、訴訟リスク面からも税務リスク面からも、「現地法人を設立しない」という選択肢は考慮されるべきです。


このコラムは、一般的な事例における筆者の経験を読者の皆様と共有するものであり、特定の事実関係に基く法解釈をご説明する practice of law (法律相談行為)となるものではありません。従いまして、読者の方々と筆者との間に attorney-client 関係を形成することは全く意図しておらず、内容についてご興味があり、更なるご説明をご希望の場合には、まず attorney-client 関係の条件等についてご相談することになりますことをご了解ください。