婚前契約書 プレナップ (Prenup) について
先日、ご相談に来られた若いカップルがおられました。日本人とアメリカ人のカップルですが、ご結婚されるとのことで、プレナップについてのご相談でした。「プレナップ」は正確には「プレナプシャル・アグリーメント(prenuptial agreement)」といい、日本語に訳すと「婚前契約書」となります。
ハリウッドスターなどが結婚・離婚する時には必ずと言っていいほど話題にあがるプリナップですが、これは結婚生活上の小さな取り決めから、離婚することになった時の資産分与までを結婚前に取り決める、法的効力を持つ夫婦間の契約書です。アメリカでは州によって婚姻中に取得した資産の所有権の帰属が異なりますが、カリフォルニア州はテキサスやネバダ等とともに、「community property」という制度で、贈与や相続等の特別なもの以外、婚姻中の稼ぎ及びその稼ぎで取得した全ての資産は、夫婦どちらが働いたものであっても、基本的に二人それぞれ50%ずつの所有となります。結婚する前に持っていた資産は別々の所有(separate property)ですが、community propertyとseparate propertyを混ぜてしまったりして、separate propertyであることを証明できなければ、すべてcommunity propertyとみなされてしまいます。
ですから、離婚するときに、結婚前にぞれぞれが持っていた資産はどれかを明確に区分していなければ、全ての資産はcommunity propertyとして、二人が財産を半分ずつ分けることになってしまいます。それを防ぐため、結婚してからでもそれぞれの稼ぎはseparate propertyのままにするとか、どの資産がseparate propertyであるかを明記するとかして、プリナップを交わすことで離婚する際に大事な資産を守ることができます。
離婚時にそれぞれの資産を守るためだけではなく、離婚時の資産分配の不確定要素を排除し、無駄な争いを避ける、という効果もプレナップにはあります。例えばある有名なゴルファーのプリナップの内容の一部に「結婚生活が10年続いた上で離婚したら夫人が約20億円を受け取れる」というものがあったそうですが、プリナップを結んでいなかったら、離婚時に夫人は、婚姻中にゴルファーが稼いで得た資産の半分しか得られません。
でも、婚姻中は派手な生活をして稼ぎを全部使ってしまい、離婚時に残ったのは結婚前に貯えたものだけであれば、離婚時には夫人の持分は何もありませんが、婚姻中には結婚前の貯えを費やして生活していて稼ぎを全て貯えに回していたり、あるいは結婚前に持っていた資産と結婚後の稼ぎで得た資産を混同してしまって区分できなければ、全資産の半分が離婚時に夫人の持分として分配されることになります。
ですからプレナップがないと、婚姻中にどこのお金をどこからどう使ったかによって財産分配が大きく左右されてしまいます。こういう不確定要素を排除し、離婚時にはどういう財産分配をするのかを事前に決めておくというのは、決して無駄なことではないと思います。
多くの人がこの婚前契約を「金持ちが自分の資産を守るために結ぶもの」だと認識していましたが、離婚する時は精神的にも金銭的にも大きな負担がかかることが知られるようになり、一般の人も「プリナップがあれば、双方にとって満足いく条件でスムーズに離婚 できる」と認知されるようになってきたようです。シリコンバレーではストックオプションで大きな富を手にした若い方々が多くいますし、昔からベイエリアに住んでいる人たちも不動産価値の上昇により、巨額の資産家となった人々もおられます。
ですから離婚時にもめないようにプレナップを、ということのようです。
とはいえ、契約社会のアメリカではあまり抵抗がないのかもしれませんが、結婚する際に離婚する時の財産分与の取り決めをするというのは、日本人からすると、縁起が悪いような気もしますし、お金に執着していると思われるのが嫌だと思う方も多いので、あまり定着しないかもしれませんね。