201604.02
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カリフォルニアの雇用法

カリフォルニアで事業を開始するに当たり、日本から来た人は日本の慣習をそのままに、ここカリフォルニアでの雇用を実施しようとしますが、それは非常に危険です。継続雇用が大原則の日本と異なり、カリフォルニアを含め、米国の雇用の一般原則は、「At-Will Employment」です。このAt-Will Employmentというのは、「employment (雇用関係) は当事者のAt-Will (任意) で成立し、個別のExplicit/Express (明確/明言) な雇用契約がない限り、雇用者も被雇用者も、何時でも、いかなる理由でも、雇用関係を解消する権利を有する、というものです。つまり、雇用者は従業員をいつ、いかなる理由で解雇してもいいし、逆に従業員も、いつ、いかなる理由で辞職してもいい、ということです。もっとも、「いかなる理由でも」といっても、法の許す範囲での「いかなる理由」であり、解雇理由が法に反するものであれば、それを根拠に解雇することは不当解雇となり、損害賠償責任が生じます。違法な解雇理由の例としては、人種・性別・出身国・宗教・性志向 ・高年齢・Disability (身体障害: アルコール中毒・麻薬中毒も含む)のでご注意!?

At-Will Employmentが原則ではありますが、実際に従業員を解雇する際に、「At-Will Employmentだから解雇」というだけでは不十分です。そもそも解雇するからには何らかの理由があるはずで、その理由を言わないのは何らかの違法な理由で解雇することを隠していると疑われるのは必至です。また、解雇するときにきちんとした合法的な理由がないと、従業員が違法理由による不当解雇を訴えた場合、従業員の主張する違法理由ではなかったということを証明する挙証責任(Burden of Proof) を会社が負ってしまいます。逆に、会社側が解雇時に、これこれこういう理由で解雇します、とキチンと合法な理由をつけて解雇すれば、会社の主張する理由は本当の理由ではなく、実は違法な理由であった、ということを証明する挙証責任は従業員が負うことになります。ですから解雇の際には、「For Cause」(何らかの理由による解雇)なのか、「Layoff」(人員削減)なのかを明確にし、For Causeであればその理由とそれを証明する事実、たとえば欠勤が多いことを理由にするなら、勤務実績と欠勤実績を示す書類等、を添付して解雇通知をだすべきです。要注意なのは、「Pretext」(見せかけの理由) は直ぐに見破られてしまう、ということです。

私の経験から申し上げるのですが、日本の方は往々にして、「本当の理由なんてわからないじゃないか」と、違法な理由で解雇する際に適当な合法的理由をつけて、違法性を逃れようとする傾向が強いようです。でも、政府機関が不当解雇の訴えを受けて調査する際には、会社の主張する理由はまったく無視し、過去の解雇記録や同時に解雇された人の年齢・性別・人種等々から、Adverse Employment Actionの傾向を調べます。そうすると、これまで解雇したのはすべて白人以外だったとか、50歳以上ばかりだったとか、何らかの傾向が如実に見えることが多々あります。如実というほどでなくても、会社の言う理由が実は口実であり、本当の理由は別の違法なものであった、と判断するのは会社ではなく、調査をするのは政府機関であり、究極的には裁判で陪審員が判断するのであり、会社側が「本当の理由なんてわからないじゃないか」という態度だと、政府や陪審員に逆に本当は違法な理由だったと思われやすくなってしまいます。

ですから、解雇時には裏付け資料の揃った正当な解雇理由を通告することが非常に大切です。

Non-Competition Clause(競合禁止規定)は無効

退職・解雇した従業員が競合他社に就職したり、競合するビジネスに従事することを禁止する契約規定は、日本でも米国の他の州でもよくある話ですが、California州法では職業選択の自由を制限する契約は無効で強制力はありません。でも、転職した者が前職で入手したTrade Secretを流用することを禁止することはできます。ですから、Employee Manual (社内規定)・Termination Notice (解雇通知)・雇用契約書で、どういう行為がTrade Secret及びその流用に該当するかをきちんと定めておく必要があります。結果として、優秀な人材を確保・維持するには、単にoffer letterを出してAt-Will Employmentとするのでなく、十分にそれぞれの背後事情を検討した個別の雇用契約の締結が不可欠ということになります。

従業員の採用

職務分析とJob Description

日本の就職は実は「会社」に採用されて勤務するもので、特定の「job (職・ポシション)」に限定されませんが、米国では従業員の採用には、まずこの「job」を定義することから始まり、採用はこの「job」に限定されます。ですから、まずどのような仕事をこの「job」が担当するのかを決め、どのような権限を持ち、誰の指示を受けて誰を指示して何を遂行するのか、部下の採用・解雇権限はあるのか、という「job description」を作ることが必要です。

採用広告

Job descriptionができたら求人広告を出します。色々な求人ウェブサイトや日系週刊新聞の求人欄等の方法がありますが、筆者の経験では、人材派遣会社を使うと応募者を早く多く見つけてきてくれます。

人材派遣会社

慢性的人材不足のシリコンバレーには日系・非日系の様々な人材派遣会社が乱立しています。特に全米でも比較的日本人の多いこともあり、日系だけでも10社近くあると思います。これらの人材派遣会社には、紹介した候補者が採用された場合にその年俸の25~30%を紹介報酬として採用した会社が支払います。人材派遣会社はシリコンバレーのポジションであっても全米に求人広告を出すとか、それぞれが求職者のリストを持っていたりとか、それなりにprofessionalとしての価値のあるノウハウを有しています。また人材派遣会社は、基準を示しておけば面接前のスクリーニングも行ってくれるので、会社の採用担当者の負担は大きく軽減されます。

気をつけなければいけないのは、会社の出す求人広告とは別に、紹介依頼を受けた人材派遣会社はそれぞれが独自に求人広告をだすので、同じ応募者が複数の人材派遣会社から紹介されるとか、直接応募してきた人が人材派遣会社からも紹介される場合が多々あるということです。その場合、どのルートで紹介・応募してきたのかを明確に記録しておかないと人材派遣会社間や会社と人材派遣会社との間でもめることになります。ですから、やたらと多くの人材派遣会社に依頼するよりも、いくつかの人材派遣会社を事前にインタビューし、気に入った1社か2社の人材派遣会社だけを選択して求人のオーダーを出すにとどめることをお薦めします。また、人材派遣会社を使うなら、自社の求人広告は出さない方が混乱を招かず得策です。

面接前の書類スクリーニング

応募者の履歴書をもとに、その job に必要と考える学歴・資格・経験年数等の客観的基準で面接する候補者を選びます。もちろん性別・人種・出生地・出身国・性志向・身体障害等をもとに候補者を選択してはいけません。また、全応募者の履歴書等の応募書類を保存しておき、何を基準として面接候補者を選択したかの記録を残しておくことをお勧めいたします。

面接

“Don’t”s (してはいけないこと)

  1. 年齢を尋ねる
  2. 人種・出生地・出身国・宗教について尋ねる
  3. 妊娠しているかどうか尋ねる
  4. 性志向 (同性愛かどうか)を尋ねる
  5. 身体障害があるかどうか、或いは身体障害があることが明白であれば、その詳細を根掘り葉掘り尋ねる。

“Do”s (すべきこと)

  1. Titleを言うだけでなく、仕事の内容を詳しく説明する。勤務時間・勤務地・報酬額・祝祭日・vacation・sick day等の勤務条件も詳しく説明する。できればEmployee Handbookを見せるのも一案。
  2. 仕事の内容で、どうしても欠けてはならない職能を述べ、それを遂行できるかどうか、あるいは遂行するには何らかの援助(accommodation)が必要かどうかを尋ねる。
  3. 過去の職で何を達成したか、そのことを証明・裏付けしてくれる人がいればその連絡先も尋ね、事実かどうかを確認する。
  4. 過去の職でのtitle・報酬・勤務期間を尋ね、そのことを証明・裏付けしてくれる人がいればその連絡先も尋ね、事実かどうかを確認する。
  5. 可能ならば、何らかのテストを行い、客観的な数値で候補者の優劣を示せる記録をとる。
  6. 面接は二人以上の人が行い、それぞれの面接者が意見交換せず、独自の評価結果を記録しておく。

最終選択

面接が一通り終わったら、面接者の評価結果を鑑みてどの候補者を採用したいかを決定することになります。この過程では、それぞれの面接者の評価記録をもとに、どういう点を決定要因としたかを記録しておくことをお勧めします。もちろん、その決定要因が性別・人種・出生地・出身国・性志向・身体障害等の違法な理由であってはいけません。

採用されなかった候補者が、「自分が選ばれなかったのは違法な理由によるものだ」という訴えを起こすことは頻繁にあります。その時に、客観的なテスト結果を示せたり、面接者の主観であっても、なぜ選ばれなかったか、合法的な理由を提示できることが非常に重要です。

Offer Letter

採用したい人が確定したら、Offer Letterを出します。Offer Letterは基本的に合意したその従業員の勤務条件と勤務環境をお互いに確認するものです。注意点としては、

  • At-Will Employmentであるなら、そのことを明確に書いておく。
  • 給与の記載は、支給日ごとの給与支給額とし、年収は参考としておく。(年収の記載は一年間の継続雇用を保証した雇用契約と主張されたり、一年未満で解雇する際に一年分の給与を要求されたりする根拠を作ってしまいます)
  • 「Report To」を明確に: その従業員の直接の上司は誰であるか、誰がその従業員の管理監督権限を有するかを明確にしないと従業員が混乱します。
  • 「Job Description」(業務内容・責任)も明確に記述します。「そんなこと言わなくてもわかるでしょ?!」は通用しません。Job Descriptionには、何 (顧客への売価・値引・納期等) を決める権限があるのかないのか、等の権限の範囲を明記しておかねばなりません。Vice President等のofficerとみなされる title を与えると、特に制限しない限り、会社を代表して契約を締結する権限を与えたとみなされるので注意が必要です。

このコラムは、一般的な事例における筆者の経験を読者の皆様と共有するものであり、特定の事実関係に基く法解釈をご説明するpractice of law (法律相談行為)となるものではありません。従いまして、読者の方々と筆者との間にattorney-client関係を形成することは全く意図しておらず、内容についてご興味があり、更なるご説明をご希望の場合には、まずattorney-client関係の条件等についてご相談することになりますことをご了解ください。