エキスパート・ウィットネス (専門家証人) -「No」と言えない日本人
先日、ある会社から依頼されてエキスパート・ウィットネス (専門家証人)として法廷で証言する機会がありました。通常の証人(事実証人・ファクト・ウィットネス)は、その訴訟に関わる事実を直接目撃するか体験するかしたことしか証言できませんし、事実をもとに自分の意見や憶測を法廷で証言することもできません。また、他人の証言内容に影響されないように、自分の証言が終わるまで、他の証人が証言するときに法廷内にいることも禁じられるのが通常です。
それに対し、エキスパート・ウィットネスは、他の証人の証言する事実にもとづく自分の憶測・推測・意見を証言します。ということで、私が意見を求められたのは、「日本のビジネスマンの行動・思考の傾向」、つまりある一定の状況において日本のビジネスマンはどういう行動をする傾向があるか、ということでした。
その証言でも言ったのですが、ビジネスマンに限らず、私が特に日本の方の反応で米国人の反応と大きく異なると感じるのは、会話の相手に対して「No」と答えなければならない状況下での反応です。ビジネスマンでなくても経験があると思うのですが、例えば何かの日程を設定する相談をしている時、相手に「x月x日はどうですか?」と尋ねられると、米国人の場合は、都合が悪ければあっさりと「No, it doesn’t work for me.」と言うのに対し、日本の方だと、「ごめんなさい、その日はどうしてもダメなんです。実は娘の誕生日でして」とか、「いや~、申し訳ない、その日はたまたまxxxがあって動かせないんです」というように、平謝りに近い謝罪をされるだけでなく、なぜNoと言わなければいけないのか、あるいはNoと言うことがどれほど妥当であるか、をとうとうと説明されて逆に戸惑うことがよくあります。
お酒の席で勧められた盃を断ってはいけない、と教えられた記憶もありますが、どうも日本人の感覚として、「No」というのは非常に耐え難いことのように思えます。でもあえて「No」といわねばならない、ということをわかってほしい、ということで、ついついその背後事情を説明してしまう傾向があると思いませんか?
極端な例では、委託生産する契約交渉の場で、相手の希望する取引価格を提示され、それが受け入れられないくらい低い金額だった際に、単に「No」と言うだけでは言い足りないと、材料費や加工費の見積計算書まで見せて、「こんなにかかるのでその取引価格では採算があいません」と詳細に説明したくなるという話も聞いたことがあります。相手はとりあえずダメもとで思いっきり低い金額を提示しただけなのに、詳細な原価計算を見せてこちらの手の内を全てさらけ出してしまってでも、「No」を正当化したくなるのでしょうが、そんなことしたら大変なことになってしまいます。
ということで、日本人感覚には反するかも知れませんが、「No, thank you.」とあっさり断ることに慣れないといけません。
このコラムは、一般的な事例における筆者の経験を読者の皆様と共有するものであり、特定の事実関係に基く法解釈をご説明するpractice of law (法律相談行為)となるものではありません。従いまして、読者の方々と筆者との間にattorney-client関係を形成することは全く意図しておらず、内容についてご興味があり、更なるご説明をご希望の場合には、まずattorney-client関係の条件等についてご相談することになりますことをご了解ください。